JAPAN SAME 2

戦争に勝つことより、家に帰ることのほうが、ずっと難しいことがあるんだよね。
戦場では敵がはっきり見えるけど、帰り道では何が敵なのか分からなくなる。
神々まで敵に回ったら、海も風も、全部が牙を向いてくる。

この話が語られ始めたのは、今からものすごく昔、紀元前8世紀ごろって言われてる。
ギリシャの詩人ホメロスが残した物語で、何百年も、何千年も語り継がれてきた。
その中心にいるのが、オデュッセウスっていう一人の戦士。

当時、ギリシャとトロイの間で、大きな戦争が起きてた。
いわゆるトロイ戦争で、きっかけはトロイの王子パリスが、スパルタの王妃ヘレネを連れ去ったことだった。
たった一人の女性をめぐって、世界が壊れていく、そんな時代だった。

オデュッセウスはスパルタ側として、この戦争に参加する。
戦いはすぐには終わらなくて、気づけば10年。
数えきれないほどの兵士が命を落としたのに、トロイの城は落ちなかった。

そこでオデュッセウスが考えたのが、あの有名な策。
巨大な木の馬を作って、これは戦争を諦めた証だって言って、トロイに残していく。
トロイの人たちはそれを勝利の象徴だと思って、城の中に運び込んだ。

夜になると、その馬の中に隠れていた兵士たちが出てくる。
城は燃やされ、街は崩れ落ちて、長かった戦争は、ようやく終わった。
ここまでが、よく知られている話。

この物語は『イリアス』として残っていて、映画『トロイ』にもなった。
そしてこれから、クリストファー・ノーラン監督による『オデュッセイア』が描こうとしているのも、この続きの話。
でも実は、ここまでは、まだ序章なんだ。

戦争が終わったあと、オデュッセウスが望んだのは、ただ一つ。
故郷イタケーに帰ること。
妻のペネロペと、息子のテレマコスが待つ家に戻る、それだけだった。

でもこのとき、本人はまだ知らなかった。
本当の戦いは、もう終わっていると思っていたこのあとに始まるってことを。
この帰り道そのものが、伝説になるってことを。

それが、オデュッセイア。
帰るためだけの、長すぎる旅の始まりだった。

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トロイを出たあと、オデュッセウスは十二隻の船で、故郷イタケーを目指して海に出た。
戦争は終わったし、あとは帰るだけ、そう思ってたはずなんだよね。
でも現実は、すぐにそれを許してくれなかった。

数日後、一行はトラキアのイスマロスの海岸に着く。
そこにいたのがキコネス族で、上陸した瞬間、激しい戦いになった。
街は略奪されたけど、オデュッセウスは一人の男だけは殺さなかった。

それが、太陽神アポロンの神官マロンだった。
助けられたお礼に、マロンは自分の家族と一緒に生き延びて、後日オデュッセウスの船を訪ねてくる。
そのとき渡したのが、ヤギの皮袋に入った特別なワインだった。

このワイン、ただの酒じゃなかった。
ものすごく濃くて、強くて、神でさえ意識を失うほどだったって言われてる。
この先の旅で、重要になる伏線みたいな存在だね。

問題は、そのあとだった。
部下たちは戦利品を集めるのに夢中で、なかなか船に戻らなかった。
その間に、生き残っていたキコネス族が反撃してきて、多くの仲間が殺された。

オデュッセウスはすぐ撤退を命じて、なんとか海へ逃げ出す。
でも、失った命は戻らない。
この旅が簡単じゃないってことが、もうはっきりしてきた。

その後、イタケーが見えるくらい近づいたとき、突然、恐ろしい嵐が起きる。
船は海に投げ出されて、九日間も、風と波に流され続けた。
そしてたどり着いたのが、不思議な島だった。

そこに住んでいたのが、ロートスを食べる人たち。
穏やかで、優しくて、争う気配がまったくない。
彼らはオデュッセウスの部下に、花みたいな実を差し出した。

それを口にした瞬間、何かが変わった。
故郷のことも、家族のことも、帰る理由そのものも、全部どうでもよくなる。
この島にずっといればいい、そう思うようになった。

オデュッセウスは無理やり仲間を引きずって、船に戻した。
優しさに見えるものが、一番危険なこともある。
忘れるっていうのは、楽だけど、前に進めなくなる。

夜の闇の中、次に上陸したのはキュクロプスの島だった。
食料も水もほとんど残っていなくて、もう選択肢がなかった。
そこでオデュッセウスは、信頼できる十二人を連れて、洞窟に入る。

中には羊やチーズ、ミルクがあって、どう見ても牧人の住まいだった。
空腹と疲れで、部下たちは考える前に食べ始めてしまう。
そのとき、外から重い足音が響いた。

現れたのが、巨大なキュクロプス、ポリュペモス。
海神ポセイドンの息子で、怪物みたいな存在だった。
彼は洞窟の入口を大きな岩で塞いで、二人の兵士をつかみ、そのまま食べた。

オデュッセウスは命乞いをしたけど、まったく聞く耳を持たなかった。
次の日も、さらに二人が殺される。
このままじゃ、全員死ぬ、そう分かった。

そこでオデュッセウスは、あのワインを取り出す。
ポリュペモスに飲ませると、怪物はあっという間に酔っ払った。
そして、名前を聞いてくる。

オデュッセウスは答える。
自分の名前は、「誰でもない」。
それを信じたポリュペモスは、そのまま眠りに落ちた。

眠った瞬間を狙って、男たちは木の槍を火で熱して、唯一の目に突き立てる。
洞窟中に悲鳴が響いて、外にいた仲間のキュクロプスたちが集まってくる。
でも聞こえてきたのは、「誰でもないにやられた」という叫びだった。

それを聞いて、外のキュクロプスたちは引き返す。
助ける理由が、どこにもなかった。
言葉一つで、生き残れるかどうかが決まった瞬間だった。

オデュッセウスは、ポリュペモスを殺さなかった。
入口の岩を動かせるのは、彼しかいなかったから。
翌朝、羊を外に出すとき、男たちは羊のお腹にしがみついて脱出する。

無事に船へ戻ったそのとき、オデュッセウスは叫んでしまう。
自分はオデュッセウス、イタケーの王だと。
それが、すべてを変えた。

怒り狂ったポリュペモスは、父ポセイドンに祈る。
オデュッセウスが決して故郷に帰れないように、帰れたとしても、すべてを失ってからであるように。
その祈りが聞き届けられた瞬間から、海そのものが敵になった。

ここから先の旅は、運じゃない。
選択と、その代償だけが続いていく。

ポセイドンの怒りを背負ったまま、船はまた流される。
たどり着いたのは、風を司る神アイオロスの島だった。
彼はオデュッセウスに、すべての荒れた風を閉じ込めた革袋を渡して、穏やかな追い風だけを残してくれる。

その風のおかげで、船はまっすぐイタケーへ向かった。
もう陸が見えるところまで来ていた。
でも、そこで仲間たちが疑い始める。

あの袋には、金や銀が入っているんじゃないか。
オデュッセウスが眠っている間に、袋は開けられた。
閉じ込められていた風が一気に解き放たれる。

次の瞬間、船はまた嵐の中に戻された。
努力も、希望も、一瞬で消える。
この旅では、あと少しが一番危険だった。

流れ着いた先は、ライストリュゴネスという巨人たちの島。
彼らは人を食べる怪物で、港に入った船を岩で叩き潰した。
十二隻あった船のうち、十一隻が沈む。

生き残ったのは、オデュッセウスが乗っていた一隻だけ。
仲間も、数えるほどしか残っていなかった。
それでも、進むしかなかった。

次にたどり着いたのが、魔女キルケーの島。
オデュッセウスは警戒して、部下たちを先に偵察へ向かわせる。
美しい屋敷で、キルケーは食事でもてなした。

一人だけ、エウリュロコスは口をつけなかった。
食べた仲間たちは、次の瞬間、豚に変えられていた。
魔法だった。

逃げ帰ったエウリュロコスから話を聞いて、オデュッセウスは向かう。
途中で出会ったのが、神ヘルメス。
彼はモリュという草を渡して、これが魔法を防ぐと教えた。

同じ食事をしても、オデュッセウスは変わらなかった。
剣を抜いて、仲間を元に戻すよう迫る。
キルケーはそれに従った。

気づけば、その島で一年が過ぎていた。
時間は流れていたけど、イタケーのことは忘れなかった。
出発しようとしたとき、キルケーは一つ条件を出す。

先に冥界へ行き、預言者テイレシアスの言葉を聞け。
そう言われて、再び船は出る。
そこは、霧と闇に包まれた死者の国だった。

血を捧げると、魂たちが集まってくる。
現れたテイレシアスは、ポセイドンの怒りはまだ終わっていないと言う。
そして、これから待つ危険の名前を告げる。

セイレーン、スキュラ、カリュブディス。
さらに、太陽神ヘリオスの聖なる牛には、絶対に手を出すな。
それが、最後の警告だった。

やがて、甘い歌声が聞こえてくる。
セイレーンだった。
オデュッセウスは仲間の耳を蝋で塞ぎ、自分をマストに縛らせる。

歌は、正気を奪う。
解いてくれと叫んでも、誰も聞こえない。
そのまま船は通り過ぎた。

次に現れたのが、スキュラとカリュブディス。
避けられない選択だった。
スキュラの六つの首が、六人の仲間をさらっていく。

助けることはできなかった。
ただ、見ているしかなかった。
そして、船は進む。

たどり着いたのが、ヘリオスの島トリナキア。
嵐で足止めされ、食料が尽きていく。
オデュッセウスが眠っている間、仲間たちは禁を破った。

聖なる牛を殺し、食べてしまった。
その代償は、すぐに来る。
ゼウスの雷が船を打ち砕いた。

全員が海に沈む。
生き残ったのは、オデュッセウス一人だけ。
完全な孤独だった。

漂流の末、彼はオギュギア島に流れ着く。
そこにいたのが、ニンフのカリュプソ。
彼女は彼を救い、七年間、共に暮らした。

結婚と、不死の命も差し出された。
それでも、オデュッセウスが望んだのは一つ。
イタケーに帰ることだった。

やがて、ゼウスの命令でヘルメスが来る。
カリュプソは彼を解放した。
でも、海はまだ終わっていなかった。

筏は嵐で壊され、また沈みかける。
助けたのは、海の女神イノ。
彼女のヴェールが、命をつないだ。

流れ着いた先が、パイアケスの国。
王女ナウシカアに見つけられ、王の前で旅の話をする。
王はそれを聞いて、ついに彼を故郷へ送る。

イタケーに戻っても、すぐには終わらない。
女神アテナは、彼を老人の姿に変える。
宮殿は求婚者たちに占領されていた。

ペネロペは、昼に織って、夜にほどくことで時間を稼いでいた。
そして最後に、弓の試練を出す。
オデュッセウスの弓を引けた者が、夫になる。

誰一人、弓を引けない。
最後に前に出たのが、みすぼらしい老人だった。
弓は、何事もなく引かれる。

矢は、狙い通りに飛ぶ。
その瞬間、正体が明かされる。
息子テレマコスと共に、求婚者たちは倒された。

ペネロペが信じたのは、二人だけの秘密だった。
それを聞いて、ようやく確信する。
二十年ぶりの再会だった。

オデュッセウスは、故郷に帰った。
多くを失って、すべてを背負って。
それでも、生きて帰った。

この物語は、ここで終わる。
そして、また語り直されようとしている。
クリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』は、2026年7月17日にIMAXで公開される。

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